2025年11月7日、東京商工会議所 Hall & Conference Room にて、認定NPOカンファレンス「ignite!」が開催されました。
「社会課題解決をあきらめない」という思いを胸に、全国の認定NPOのリーダーたちが集い、活動の未来や組織のあり方を見つめ直す場として、さまざまな学びや対話が交わされました。
なかでも会場が大きな熱気に包まれたのが、団体のビジョンや挑戦をまっすぐに伝えるピッチコンテストです。
この記事では、NPO法人eboard・中村孝一さんのピッチをご紹介します。
登壇者情報
中村 孝一
NPO法人eboard
代表理事
1986年兵庫県生まれ。大学在学中に学習塾や学習支援現場での経験から、子どもたちの学習課題を痛感。外資系コンサルティング会社勤務を経て2011年にeboardを設立、2013年にNPO法人化。オンライン映像授業とデジタルドリルを提供するICT教材eboardを運営し、「学びをあきらめない社会」を目指して活動。2016年、世界経済フォーラムGlobal Shapers Osakaハブメンバーに選出。
今日のイベントは、「ignite」。日本語では“火をつける”という意味です。
今日は、私に火をつけてくれた、活動の原点から、話をさせてください。
大学に入るとすぐ、私は学習塾で働きだしました。
思いがけず、いろんな子に出会いました。
学校の授業から何年も遅れている子、不登校で塾だけで勉強している子、いま思うと学習障害だろうなという子もいました。
それでも、できなかったことができるようになる。その伴走ができるのは、とてもやりがいのある仕事でした。
現場での経験が忘れられず、教育の道へ
大学を出た後は、コンサルティング会社のアクセンチュアに入社。
しかし、どうしても現場での経験が忘れられなかった私は、
1年ほどで退社。現場で教えるのではなく、少し変わった取り組みを始めました。
それは、動画授業を撮ること。
勉強が分からなかったとき、新しいことを学びたいとき、いつでもどこでも見て学ぶことができる。そんな動画があればと、考えました。
動画を作っては、教えている生徒に試しに使ってもらう。
法人化までの約2年間、撮り続けた動画は、1,000本以上に上りました。
「すごいですよね」。よく言われるんです笑。けれど実際には、は実家に帰り、貯金も底をつき、「こんなこと、いつまで続けるんだろう」と焦りと不安しかない日々だったんです。
人口6,000人の小さな町で始まった挑戦
人口6,000人ほどの小さな町、島根県吉賀町。週末の補習に、「ICT教材eboard」を使いたいという問い合わせでした。
その頃には、自分でeラーニングシステムも作るようになっていたんです。それを持って、毎週末、片道6時間かけて、吉賀町に通う日々が続きました。
前の週に上がった現場での課題を解決するため、機能や教材を追加して、教室に持っていく。そんな試行錯誤を毎回積み重ねていきました。
そうして、最初の2カ月が過ぎたころ。教室を後ろから眺めると、ふとあることに気がつきました。
受験を控えた中学3年生が、ある子は予習を、またある子は小学校の算数からやり直しをと、
一人ひとりが、自分の力で、自分のペースで学んでいる。
「これは本当に、大きな可能性があるんじゃないか」
私の中に、1つの火が、灯った瞬間でした。
「学びをあきらめない社会」を目指して
この年、「学びをあきらめない社会を実現する」というミッションを掲げ、NPO法人を設立。
インターネット上に、無料で学べる場所をつくる、という活動を正式にスタートしました。
その後、eboardは、時間をかけて周りの自治体に広がっていきました。
こちらは、吉賀町の隣町、益田市の澤江さんと谷上さん。公民館での取り組みは、子ども達が学び、育つフィールドとして、学校でも塾でもない、「地域」があることを教えてくれました。
取り組みは、都市部にも広がりました。横浜市のNPO法人アーモンドコミュニティネットワークの水谷先生。
困窮する家庭に丁寧に寄り添う、まさに「草の根」で活動されています。
ユーザーの年齢にも、広がりが出てきました。京都府立清明高校の山下先生。定時制高校での取り組みは、
人はいつでも自らの力でやり直していけるということを、
生徒たちから教えられました。
こうした現場の人たちは、私たちの「学びをあきらめない」という言葉をとても大切に、一緒になって大切に背負ってくれたんです。
コロナ禍でユーザーが急増。全国100万人の学びを支えるインフラに
けれど、事業としては赤字続き。
動画やタブレットを使って学ぶことは、まだ一部に限られたものでした。
しかし、そんな中、再び大きな転機が訪れます。2020年、新型コロナの世界的な感染拡大。
eboardのユーザー数は急増し、一斉休校中には、全国100万人の学びを支えました。
同時に、ユーザーの拡大は、利用者の多様化をもたらしました。
1,000人以上のボランティアと共に乗り越えた学びをはば「言葉の難しさ」
発達障害から「学びづらさ」を抱えた子、ろう・難聴の子、そして外国ルーツの子。
実は、共通する学びのハードルがあったんです。それは、「ことば」の難しさでした。
まずは、ろう・難聴の子が利用できるよう、動画に字幕をつける。
そこからさらに、字幕の言葉や文章を、人の手でわかりやすく編集することで、多様な子どもたちにアプローチできることが分かってきました。
なんとか、この「やさしい字幕」を実現したい。しかし、必要な人数は1,000人以上。
本当に実現できるんだろうか。
そんな不安は、手を挙げてくれた人たちの声が、消し去ってくれました。
「中学生のときに、eboardに助けてもらった。今度は自分が力になりたい」
「聴覚障害の娘が、将来使える教材をつくりたい」
「いつも使わせてもらっているeboard。教室でグループを作って取り組みました」
最終的には、19の企業・団体、1,000名以上の方の協力で、約2,000本すべての動画に「やさしい字幕」を付けることができ、日本の映像教材で唯一、「字幕による学習保障」を実現しました。
2022年には、この取り組みを評価いただき、ジャパンSDGsアワードを受賞することができました。
年間利用者200万人を突破
それからも、eboardは多くの寄付やボランティアに支えられ、今では、年間で200万人以上に学びを届けることができるようになりました。
それでは、実際に使っている子どもたちの声、聞いてみてください。
「学校の授業で、言われてもわからなかったところを、eboardで家でやるときに見たりするから、それのおかげで、改めてそういうことがというのが分かる。」
「分からないところはもう一回予習とか復習したりしています。動画とか見てて、けっこう点数も伸びたりしました。」
「授業でわからないまま進められてしまうことが多かったので、そのままにしてしまって困ることがたくさんありました。でもeboardなら、自分のペースで勉強を進められます。」
これからの社会に欠かせない“安心して無料で学べる場所”
2030年、現在のペースでいけば、不登校は10人に1人。子どもの貧困、外国ルーツの子、発達障害、今の教室には多様な子が在籍しています。
それを、世界で一番忙しい日本の先生が、地域の人が、NPOが支えています。
そんな状況にあって、インターネット上の「安心して無料で学べる場所」は、これまで以上に、この国に必要なものだと、私たちは信じています。
次は、今日ここにきた、あなたの番です。
eboardを使ってもらう、紹介する、
ボランティアで参加する、
寄付で応援する。
どんな形でも構いません。
あなたの参加が、まだ見ぬ子どもたちの学びに火をともすんです。
「学びをあきらめない社会」、共に実現しましょう。
ありがとうございました。